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(小林尹夫-哲学ルーム)

『君たちは―』(第20回)・叔父さんが語った「生産関係論」について・7

君たちはどう生きるか』(吉野源三郎-私の読書体験ノート

 

 勿論、採集・狩猟の時代の原始共同体社会から奴隷制社会への移行の根底・土台にも生産力の発展があった。

 人類は二足歩行を実現し、手足の自由を得、頭脳の急速な成長を実現し、頭脳活動を駆使した目的意識的な活動・労働が可能になった。こうして人類は複雑な活動・労働ができるようになり、その結果、原始的で初歩的な道具、石器、木器、土器を製作・使用した時代から青銅器・鉄器の発明・製作・使用の時代へと大きく転換していく。これにより、生産力の飛躍的な成長、発展が実現され、大量の余剰生産産物・財物が生れるようになる。その独占・私的占有を図った一部の力の強い豪族・貴族による支配(財力を持ったグループ・階級の支配)が始まる。更に彼らは自らの欲望・意志を強制実現するための暴力装置・国家権力を生み出し、一般人民(一般市民・奴隷)に対する権力支配・暴力支配―奴隷制社会―が始まっていくのである。

 そして、こうした階級支配が始まると共に、それを正当化合理化する意識・思想・理屈が生み出される。つまり、土台(生産力とそれに応じた生産関係という経済的な構造)があって、その上に意識(政治的思想)が生み出されるのである。当然のことながら、土台における支配者・支配階級、権力を握っている彼らの思想こそが、支配的で強い思想となり、一方、被支配者たる人民の思想は無視され、否定され、抑圧され、弾圧される。力の強い支配者の思想と行動が常に正義・英雄的とされ、反抗する民衆の思想と行動は社会秩序を破壊するものとしか見られない。この事情は、現代の階級支配の社会たる資本主義社会においても、まったく同じであり、何一つ変わっていない。

 この奴隷制社会が崩壊し、新しい生産関係を有する封建社会に移行していく歴史過程にも、当然、生産力の発展が作用している。肥料の運用、鍛冶技術の向上、馬や牛を使った犂による耕運等々が登場してくると、それまでの奴隷的労働―牛馬のようにただ命令されたことだけをこなすという非能動的で消極的な労働―では対応できなくなり、新たな生産関係―決まった年貢さえ納めれば残りの収穫物は自分のものにすることができるという積極性を持った新たな封建的生産関係―が求められていった。

 より多くの財貨を求める貪欲な奴隷所有者たる豪族・貴族らの支配階級は、より多くの収穫・収益を求めて奴隷的人民―農奴―からの収奪を一層強化する。その結果、奴隷的人民・農奴の抵抗・反乱―階級闘争―が引き起こされる。逃亡、反乱が奴隷所有者たる豪族・貴族の支配権を揺るがし、その混乱の中から農民を引き連れた、武力を持った新しい封建領主階級が登場してくる。日本の歴史でいえば、平安貴族の時代に終止符を打った平家・源氏等の武士集団・封建領主の登場である。こうした武士集団たる封建領主の支配は江戸・幕末まで続く。

 しかし、その封建社会もまた、その胎内で生れ、成長を遂げてきた新たな生産力、機械的工業と活発な商業活動が、新たな生産関係を、その担い手たる商人・問屋・工場主等の新興ブルジョア階級(資本家階級)を生み出し、ブルジョア自由主義の旗・思想の下、封建領主に対する商人・ブルジョア・農民の抵抗・反乱、激烈な階級闘争・革命運動を到来させ、資本主義社会へと移行を遂げていく。

 かくして、歴史は常に、人間が生きる上で絶対に必要な食住衣の物質的財貨を生み出す力である生産力の発展、およびそれに伴う新たな生産関係・階級関係の誕生、新たな思想闘争と権力を巡る激烈な階級闘争を経て、前へ前へと進んで来たのである。

 生産力は必ずそれに応じた生産関係・階級関係を生み出す。ここに歴史の必然的発展の決定的要因がある。そして、その生産関係・階級関係はその立場・利害に照応した意識・思想を生み出し、新たな生産関係の担い手たる新たな階級はこの自らの意識・思想をもって、歴史必然の道を前へ前へと推し進めていく。ここにも歴史の必然がある。

 そして今、人類の歴史は資本主義社会の時代の最中にある。だが、その資本主義は今や深刻な行き詰りに直面している。