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(小林尹夫-哲学ルーム)

君たちは―』(第27 回)・社会主義とは何か (2) 『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)-私の読書体験ノート

『君たちは―』(第27 回)・社会主義とは何か (

君たちはどう生きるか』(吉野源三郎-私の読書体験ノート

 

 資本主義体制下の企業は、多くの消費者・製品の購買者を相手に、つまり社会的必要に応じて大量の製品を生産することを目的とする。このように、生産目的が完全に社会的であるにもかかわらず、生産物は資本家の私有物であり、生産計画もまた資本家(企業家)の自由に任されており、その結果、同じ製品を生産する幾つかの企業がそれぞれの生産計画を持って他の同業他社と競争する。自動車を例にとれば、トヨタ、日産、マツダ、スズキ、ホンダ、BMW、フォード、ルノーといった企業がそれぞれの生産計画に従って、自由に生産する。勿論、企業はある程度の市場調査を行って生産しているが、本質的にそれは非計画的で無政府的たらざるを得ない。その結果、多すぎたり少なすぎたりする(たいていは多すぎる)。

 ものが世の中に大量に放出され、大量のものが溢れている。しかし、消費者の側に買うお金がない時、それは過剰生産となり、恐慌を引き起こす。資本主義経済の宿命的混乱、市場経済の崩壊的現象である。こうした過剰生産による恐慌現象はほぼ10年に1回は起こっている。

 ところで、現代のような銀行や投資会社などの金融資本が資本主義のトップに立ち、資本主義経済を支配している社会では、政府・中央銀行の行なう金融政策(金利を高くしたり、低くしたりし、市中に出回る紙幣・カネの量を少なくしたり、多くしたりする)の結果、株式会社の株が上がったり、下がったりする。多くの場合、景気を刺激するためにと、大量にカネが市場にばらまかれる。それが生産活動や消費活動に回ればそれなりの効果がでるが、もはや過剰生産が行き過ぎているとき、市場はインフレ(カネがありあまっているバブルの状態)となり、そのカネは株式の投資に回り、経済の実態(生産・販売の動向)と関係なく、株の高騰を招き、何かの不安材料がきっかけで、株の暴落が始まる。危険な投資活動の実態が暴露され、突然、リスクを感じた投資家が「買い」から「売り」に走り、株の大暴落が引き起こされ、一部の投資会社・銀行が破産し、世界経済が大混乱に陥り、カネの流れがストップし、経済活動がストップし、大量の失業者が発生する。バブルの崩壊である。まさに、世の中にモノはあふれる程あるが、買う者がいない。恐慌が産まれる。現代においては、こうした金融の混乱を原因とする恐慌がほとんどであり、その恐慌は世界的で、深刻な結果を招かずにいない。

 その良い例がリーマンショックである。リーマン・ショックは、2008年9月15日に米国の大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズ投資銀行)が倒産した。2008年9月8日、アメリカ合衆国財務省は、多くの金融会社に公的資金をつぎ込む救済政策を決定。多くの金融機関があまりに「大き過ぎて潰せない」のであった。しかし、リーマン・ブラザーズは、救済対策が遅れ、2008年9月15日(月曜日)に連邦倒産法の適用を連邦裁判所に申請するに至った。リーマン・ブラザーズは、負債総額約6000億ドル(約64兆円)というアメリカ合衆国の歴史上、最大の企業倒産。これにより、世界連鎖的な信用収縮による金融危機を招いた。2008年10月3日には、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュが、金融システムに7,000億ドル(約75兆円)の公的資金を注入して不良債権を買い取ることを柱とした、金融安定化法(緊急経済安定化法)を打ち出し、何とか全面的崩壊を食い止めた。日本の日経平均株価も大暴落を起こし、9月12日(金曜日)の終値は12,214円だったが、10月28日には一時は6,000円台まで下落し、1982年(昭和57年)10月以来、26年ぶりの安値を記録した。

 リーマン・ショック大恐慌の寸前で拡大を免れたが、それは、中国はじめ世界各国の政府が大量の公的資金(税金)を投入し、金融機関を救済し、生産活動を維持し、消費刺激をが増やし、失業対策を行った結果であった。しかし、これはその後、世界的な低賃金・非正規労働者の増大・大幅増税を引き起こし、世界的な格差拡大をつくり出し、深刻な「貧富の対立」を生み出した。

 こうした「政府」(公的機関)による「公的資金」(税金)投入による「企業救済」(資本救済)、即ちこうした「社会的解決」は、まさに「資本主義」(私的所有と私的経済活動)の否定であり、「社会主義」そのものなのである。「社会主義」の到来はもう目の前で始まっている。ただし、その全面的実現は、国家体制の根本的変革抜きには実現しえないのであるが。