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(小林尹夫-哲学ルーム)

アメリカ発世界恐慌(2008年リーマンショック・1929年大恐慌)とソビエト社会主義(1928年第1次・1933年第2次計画経済) (第4回)

  2008年に爆発した大恐慌リーマン・ショック」発生の過程をたどってみよう。

 2006年末、米国の4人家族向け住宅の購入用ローンの総額は9兆9千億ドルに、2008年半ばには10兆6千億ドル(1ドル=105円として1113兆円)に達していた。それだけではなく、「サブプライム・ローン」と呼ばれる低所得者向けの高金利住宅ローンを組み込んだ金融商品―債権担保証券―は「グローバル時代」に相応しく、世界中で販売されるようになっていた。勿論ドル建てであり、その決済はすべてドルによって行われる。当時、こうした金融商品を大量に引き受けていたのがアメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズだった。もっとも、この債券担保証券市場には、「手堅い」はずの銀行も参入しており、更にアメリカのみならず全世界の金融関連企業が、こぞってこの危険な債券担保証券市場に身を投じていた。こうして、グローバル資本主義の時代に相応しく、全世界の金融関連企業とその市場は、網の目のように張り巡らされた血管・神経―ドル資金流通という血液の流れ―によって固く一つに結び合わされていたのである。

 実際、破綻の最初の兆候が現れたのは本家本元のアメリカではなく、ヨーロッパにおいてであった。2007年7月、サブプライム・ローン証券投資に絡み、ドイツの地方金融機関が支払い停止に陥り、他の銀行に救済されるという事件が起こり、8月にはフランスのBNPパリバ銀行BNP=フランス国立銀行とパリバ銀行が合併して生まれた欧州を代表するメガバンク)が「米サブプライム・ローン市場の一部証券の価格算出不明での混乱」を理由に、傘下のファンド(投資会社)に「支払いの一時停止」の指示を出すという事件が起こっていた。

 実はアメリカの住宅投資は2006年の7月~9月には17%も下落し始めていた。

きっかけは、サブプライム・ローンの最大の特徴であった「変動金利型ローン」にあった。最初の2,3年は元本返済が免除され、金利も低く設定されているが、その期間が過ぎると一気に高金利の支払いが始まり、返済額は急激に増える。限度を超えた借り過ぎの借金を抱えていた下層低所得者には到底払いきれない額であった。住宅がよほどの高値で売れない限り、弁済不能にならざるを得ない。こうなると売りに出される住宅が急に増えていき、当然住宅価格は下落せざるを得ない。もはや、「住宅価格はこれ以上値上がりすることはない」という限界点に達していたのである。

 最初はまだそれ程目立った「不動産担保ローンの破産」は見られなかった。しかし、住宅ローンの貸し手(金融機関)は、2007年には130万件近い物件(2006年に比べて79%増)の差し押さえ手続きを開始していた。こうして、2007年に入ると不動産担保ローンの破産が顕著になり、先に触れたように「一時的」ではあったが、ドイツの地方銀行支払い停止、フランスのBNPパリバによるファンド(投資会社)凍結などが相次いだ。それは、BNPパリバが「アメリカ証券市場の一部で流動性が消滅したため、一部の資産評価が不可能になった」と声明したように、アメリカ証券市場でドル資金調達の不調が発生したため、一時支払いを停止せざるを得なかったのである。要するに「網の目のように張り巡らされた血管・神経」(ドル資金流通という血液の流れ)の一部に支障が発生したのである。この時はかろうじて「一時停止」で終わったが、もはや全面破綻は避けられなくなっていた。

 かくして、2008年に入ると、「住宅は絶対に値上がりする」という神話が全面破綻し、「住宅バブル」が弾け、世界中にばら撒かれていた「債券担保証券」や「新合成証券」に組み込まれていた「サブプライム・ローン」がその内部で暴発し始めた。その暴発が、「安心格付け商品」であったはずの様々な「債券担保証券」「新合成証券」に対する投資家の信用をグラつかせ、そうした債権の投げ売りに走らせ、金融機関間の信用取引を破綻・崩壊させたのである。ドル資金の流れは完全にストップし、住宅ローン・車ローン・カードローンが関連したあらゆる分野にわたる債権の資産価格が暴落していった。そして、リーマン・ブラザーズが、2008年9月15日に経営破綻し、これが引き金となり、世界的な金融・経済危機へと広まっていったのである。リーマン・ショックとは、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズ社」の破綻に端を発した世界的な金融・経済危機であった。

 日本でも、日経平均株価も大暴落を起こし、9月12日(金曜日)の終値は12,214円だったが、10月28日には一時は6,000円台まで下落し、1982年(昭和57年)10月以来、26年ぶりの安値を記録していた。ただ、当時の日本は長引く不景気から、幸運にもサブプライム・ローン関連の債権にはあまり手を出していなかったため、被害は比較的小さかった。金融会社では大和生命保険が倒産したり、農林中央金庫が大幅な評価損を被ったものの、直接的な影響は当初は軽微であった。しかし、当然のことながら、リーマン・ショックを境に世界的な経済の冷え込みから消費の落ち込み、アメリカ経済への依存度が強い輸出産業は大きなダメージを受け、結果的に日本経済は大幅な景気後退を余儀なくされた。

 ところで、経営破綻し、世界的危機の要因となった投資会社・投資機関はリーマン・ブラザーズだけではなかった。2007年からの住宅市場の大幅な悪化とともに、投資銀行ベアー・スターンズ、ファニー・メイやフレディ・マックなどの連邦住宅抵当公庫なども危機的状態となっていた。が、それらへは、政府支援機関による買い取り単価上限額の引上げ、投資上限額の撤廃など様々な手が差し伸べられ、2008年9月8日、公庫に対しては、アメリカ合衆国財務省が追加で約3兆ドルをつぎ込む救済政策が決定された。「大き過ぎて潰せない」というのがその理由であった。

 一方、リーマン・ブラザーズは見捨てられた。リーマン・ブラザーズは、破綻の前日までアメリ財務省連邦準備制度理事会FRB)の仲介の下でHSBCホールディングス(ロンドンを拠点とする世界最大のメガバンク)や韓国産業銀行など、複数の金融機関と売却の交渉を行っていた。日本のメガバンク数行も参加したが、あまりに巨額で不透明な損失が見込まれるため、買収を見送ったと言われている。リーマン・ブラザーズの負債総額はアメリカ史上最大の約6000億ドル(約64兆円)に達していた。最終的に残ったのはバンク・オブ・アメリカメリルリンチ、バークレイズであったが、彼ら自身も打撃を食らっており、救済の余力はなかった。結局、アメリカ政府が公的資金の注入を拒否したため、交渉不調に終わった。かくして、2008年9月15日(月曜日)、リーマン・ブラザーズ社は連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所に申請するに至り、倒産。これにより同社が発行している社債や投信を保有している企業や取引先への影響・波及・連鎖などの恐れから、またそれに対するアメリカ合衆国議会・アメリカ合衆国連邦政府の対策の遅れから、アメリカの経済に対する不安が広がり、世界的な信用収縮、金融危機へと連鎖していったのである。

 巨大金融機関の投資銀行ベアー・スターンズ、ファニー・メイやフレディ・マックなどの連邦住宅抵当公庫は政府によって救済され、それほど大きくはなかったリーマン・ブラザーズは見捨てられ、倒産に追い込まれていった。

 その過程をたどってみれば「リーマン・ショック=21世紀型グローバル恐慌」の実態がはっきりと見え、現代資本主義の危機が如何なるものかがはっきりして来る。

 次回はこの問題を掘り下げ、現代資本主義の恐慌―リーマン・ショック―の真の姿を明確にしていこう。

 

アメリカ発世界恐慌(2008年リーマンショック・1929年大恐慌)とソビエト社会主義(1928年第1次・1933年第2次計画経済) (第3回)

 2008年9月16日の「米投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻」に端を発し、アメリカ経済のみならず、世界経済を土台から揺るがせ、大混乱に突き落とした「リーマンショック」はどのようにして産み出され、どのような経過をたどったのか、それを見てみよう。

参考資料にしたのは米倉茂氏(1950年鹿児島生まれ、東京大学博士課程卒、佐賀大学経済学部教授、現在同大学の名誉教授)の著書『リーマンショック 10年目の衝撃』(2019年3月刊・言視舎)及び先に紹介した浜矩子氏の著書、そして株式会社ユーロフバンクエデュケーション のWEBサイト「GOA online」に掲載されている『リーマンショックを基礎の基礎からわかりやすく~2008年に何が起こったのか~』等である。

そのショックを産み出した直接的要因は、かの有名な「サブプライム・ローン」及びその証券化という、とんでもない発明・発見・開発、その大々的販売にあった。元通産相官僚で国務大臣も務め、その後は作家・経済ジャーナリストとして名を馳せた堺屋太一氏は『中央公論』(2008年12月号)で「サブプライム・ローンとはノーベル賞級の詐欺である」と喝破しているが、まさにそれはまことに、複雑で、巧妙で、大衆を収奪する、実に強欲な仕組み・制度であった。

そもそも「サブプライム・ローン」とは何か。「サブプライム・ローン」に対して「プライム・ローン」がある。「プライム」とは、「最も重要であること。最も上等であること。最上部。極上。一般に高所得者、優良客」を指す言葉である。「プライムミニスター」とは「総理大臣」のことであり、「最も重要な、最上級の大臣」の意味である。一方、「サブプライム」とは、「重要なものの次、中位・下層所得者」の意味である。すなわち「プライム・ローン」は高所得者・優良客を相手にしたローンであるのに対し、「サブプライム・ローン」は下層の低所得者を相手にしたローンである。その違いは―プライム・ローンは固定金利型で、トータル的には低金利ローンであるのに対し、サブプライム・ローンは変動金利型で、トータル的には高金利、という点にある。

アメリカの不動産会社は、連邦準備制度理事会FRB)が進めた低金利政策及び金融機関の貸し出し基準の緩和容認―記録的なカネ余り現象の発生―で生じた「住宅バブル」を徹底的に利用した。金持ち相手のプライム・ローンの販売が一段落するや、さらなる餌食を求めて今度は下層所得者にサブプライム・ローン住宅の大量に売りつけに乗り出していった。サブプライム・ローン(たいてい30年ローン)の場合、最初の2,3年は元本返済を免除し、金利も低く設定しておいて、下層所得者でも買い易くしておく。3年後には高金利の支払いが始まるのであるが、不動産会社は「住宅バブルで住宅が値上がりし、住宅担保価値が上がるから、再び優遇措置が適用されるから心配ない」と‶悪魔のささやき〟を囁いて巧みに売り込みを図る。先のことはともかく、今売れれば手数料が入るから、取りあえず数多く売れれば良かったのだ。ローン会社・金融機関も、仮に購買者が破産しても住宅を担保にとっておけばすぐに高く売れるのであるから、貸付金はすぐ回収できる、というわけである。

 ところで、本当の問題はここからである。不動産会社(それと一体のローン会社)は、低所得者に住宅を売る・ローンを組むだけでは満足しなかった。「住宅は絶対に値上がりする」ということを大前提として、住宅購入者のローン債権を‶担保〟に「住宅ローン債権担保証券」(不動産証券・モーゲージ証券ともいう)なるものを発行し、これを投資会社・投資家に売り、その資金を、次なる住宅販売・ローンの運用資金とし、更なる営業・業績拡大を実現させていったのである。まさにこの「住宅ローン債権担保証券」(サブプライム・ローンの証券化)は、実に強欲な仕組みであり、まことに「ノーベル賞級の発明」であった。

こうしたローン債権を‶担保〟にした「不動産証券」の発行・販売は、不動産屋・ローン会社にとって、二つのメリットがあった。

第1に、ローン債権貸し倒れのリスク(危険)が回避できることである。住宅購入者がローンを払えなくなった場合(貸し倒れが起こった場合)、その損失リスクは、不動産会社及びそれと一体となっているローン会社ではなく、その債権の購入者(投資家)が負うことになる。もっとも、「住宅は絶対に値上がりする」(大前提)以上、投資家もまた、担保として取ったその住宅(中古)を売れば、損失は無くなり、儲けが出る。

第2に、不動産会社・住宅ローン会社は不動産証券を売って得た資金を新しい運転資金とし、これを元手に新しい住宅購買者・ローン顧客をどんどん獲得することができる。これなら、リスクの心配なく、いくらでも住宅を売ることができる。まさに「一石三鳥」である。

「GOA online」に掲載されている『リーマン・ショックを基礎の基礎からわかりやすく~2008年に何が起こったのか~』を参考に、詳しく説明しよう。

  • 不動産会社はA1さんに「元金300万円、利息30万円、期間10年」で住宅を売った。同じような条件でA2さんにも、A3さんにも、A4さんにも売った。その結果、当面の手元資金が300万×4人分=1200万円減った。単純に言えば、もし不動産会社の元手資金が1300万円だったとすると、この時点で、金庫には100万円しか残っていないことになる。
  • そこへ、B1さん、B2さん、B3さんから住宅購入の注文が入った。ローンを組む(3人分の建設費を用立てる)には300万×3人=900万円の資金が要る。普通は、この場合、銀行に融資を頼み込む。高い利子を払って借り入れをする。そこで登場したのが「不動産証券」なるものである。A1さん~A4さんのローン債権を一つにまとめ、「1200万+50万~100万(利息分故に既返済年月によって変動)・期間1~10年(これも既返済年月によって変動)」という新しい不動産証券(モーゲージ証券)を作る。こうした証券を作る組織として「特別目的事業体」があった。この証券を投資会社・投資家に売れば、1200万円+アルファ(利息分)の資金を得ることができる。

(注:実際には、特別目的事業体は、住宅ローンを数百~数千の単位で束ね、これを分割して証券化した)

  • こうして不動産会社・ローン会社は、新たな住宅購入者B1さん、B2さん、B3さん3人のローンを組み、販売を実現させていった。こうすれば、不動産会社・ローン会社は銀行から高い利子を払って元手資金を借りる必要もなくなる。

(注:不動産会社・ローン会社はローン債権を証券化すればどんどん投資会社が買ってくれるので、ローンの審査基準をゆるゆるにし、かなりの低所得者にもローンが組めるようにし、普通はローンなど組めないような低所得者にも住宅を大量に売りさばいていった)。

  • しかし、話はここで終わらない。強欲資本主義―金融機関―は儲けの為、利得の為に更に巧妙で複雑な仕組みを作り、この不動産証券を投資家たちに売りつけていった。その最大の仕組みが「格付け制度」である。サブプライム住宅ローンの多くは住宅ローン債権担保証券という形で証券化されるのだが、更にそれと他の社債、企業向け貸付金、消費者ローン債権、自動車ローン債権などが合成され、まったく「新しい債券」(CDO債務担保証券)が作られた。そして、第三者機関である格付け会社によって、その証券は「シニア」(AAA格)「メザニン」(AA格、A格、BBB格)「エクイティ」(BBB格未満)というリスクに応じたクラスに分けられ、損失が生じた場合でも、そのクラスに応じて損失が割り当てられ、その損失の大部分が格付け会社によって保証される仕組みになっていた。これで投資家は安心してCDO証券を購入できる、というわけである。

以上、まさに「一石三鳥」の策である。が、言うまでもなく、こうした「好循環」「一石三鳥」が通用するのは、住宅が値上がりし続ける場合であり、バブルが弾け、住宅が値下がりし始めたら、「すべてはジ・エンド、終わり」なのである。

しかし、バブルに浮かれた投資家たちはまったく無防備であった。このように、リスクの高いサブプライム住宅ローン担保を含んだ証券は、様々な信用補完処置が行われ、投資家に安心感を与えるように工夫されていたのであるが、複雑に、巧妙に作られたこの「新しい合成証券」(CDO債務担保証券)には、「サブプライム住宅ローン債権担保証券」のようなリスクの高い要素が混じりこんでいたにも拘わらず、その危険な実態は見えなくなっており、住宅バブルに踊る投資家たちは「大儲け」に浮かれ切っていて、そのリスクにまったく無頓着であった。

投資会社もまた、投資家に対して、「新しく合成された証券(CDO債務担保証券)には格付けの高いローン債権も入っており、リスクの高い不動産証券(実質はサブプライム・ローンのこと)は僅かしか組み込まれていないから、その部分がデフォルト(貸し倒れ)を起こしても大勢に影響は無いから心配するな」と説明し、その無頓着をさらに拡大させていた。

預貯金を持っていた一般投資家、年金事業機構、保険会社など投資する側は詳しい情報など得ることが出来ないので、専門の投資会社にすべて委託して資金運用を図るのが普通であった。投資会社側は資金運用の手数料を収入源としており、リスクを承知していても、様々な理由を付けて次々と投資先を変更して手数料を増やし、稼ぎを拡大させていった。投資家は何も知らされることなく、「無頓着」状態に置かれたままであった。

だが、いずれにせよ、こうした格付けなどの信用補完処置は、結局は「住宅は値上がりし続ける」という神話(大前提)が生き続けている限りにおいてのみ有効なのであって、あちこちで「住宅の値下がり⇒貸し倒れの発生」が始まるや、投資家たちが「新しく合成された証券」(CDO債務担保証券)そのものへの不安・不信を募らせていったのは当然のことである。

ひとたび住宅の値下がりが明るみに出れば、たちまち信用崩壊が始まり、必然的に住宅ローン債権担保証券といったような危険を組み込んだ「新しい合成証券」(CDO債務担保証券)は疑惑の目で見られるようになり、不信・不安から売りに走り、証券の大暴落・紙屑化が始まるのである。実際、2007年頃から「住宅の値下がり」が始まり、2008年には「大暴落・紙屑化」が始まった(きっかけはバブル狂乱に恐れをなしたFRBが遂に金利引き上げを発表したこと)。 

それが「リーマン・ショック」となるのだが、その「大暴落・紙屑化」が「リーマン・ショック」というような大恐慌状態に発展していった背景には、次のような事情があったことを付け加えておこう。

第1、すでに述べたように、アメリカ政府と中央銀行連邦準備制度理事会FRB)は、長引くアフガン・イラク戦争が与えたアメリカ経済への深刻な打撃への対策として、金利の引き上げを見送り、低金利を続け、金融機関の貸し出し基準の緩和に目をつぶり、アメリカ人がより多くのカネを借りられるように、もっとカネを使えるようにと後押しをしていた。いわゆる「インフレ政策」の採用である。つまり、世の中に、アメリカのみならず国際的にカネがじゃぶじゃぶ溢れかえっていて、人々の投資活動熱を嫌が上にも燃え上がらせていた。投資機関・投資会社は手数料収入を求め、多くの投資家たちに「今こそ大儲けのチャンスだ!」と煽り立て、「新しい合成証券」(高リスク・高リターンのCDO債務担保証券)を売りまくった。その結果、バブルに浮かれた多くの投資家たちが、このリスクの高い証券投資に一斉に走り出していった。

第2、もう一つは「レバレッジ」(‶てこの力〟‶てこの作用〟といった意味)の登場・普及である。これが用いられると、担保として預けた証拠金の何十倍にも相当する資金を動かして取引ができた。

    たとえば、1ドル=100円の時に2万ドル分(200万円)の投資を行うには、外貨預金のような商品であれば、当然ながら2万ドル分(200万円)の資金が必要になる。この時「レバレッジ」を使えば、10万円分の証拠金で2万ドルの投資が可能であった。つまり、200万円相当÷10万円で「20倍のレバレッジ」を利かせることができたのである。当時、少ない資金で大きな金額の取引ができるこの仕組み―「レバレッジ効果」―が幅広く採用され、多くの投資家がこの「レバレッジ効果」を利用し、巨額の投資活動を繰り広げた。それは順調な時には投資家に大きな利益をもたらしたが、逆にバブルが崩壊するや投資家に巨額な損失をもたらすこといなり、米国および世界経済を土台から揺るがせていった。

こうして、「リーマン・ショック」という大恐慌状態が引き起こされたのである。

アメリカ発世界恐慌(2008年リーマンショック・1929年大恐慌)とソビエト社会主義(1928年第1次・1933年第2次計画経済) (第2回)

 1929年のアメリカ発世界大恐慌を語る前に、浜矩子教授も触れている現代のアメリカ発世界恐慌について見てみよう。

 2008年9月に起こった、「21世紀型・グローバル恐慌」と言われた「リーマン・ショック」がそれである。2008年9月16日、極限まで膨らんだアメリカの「住宅バブル」が一気に破裂し、米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し、米保険大手会社のAIGの経営悪化から株価が大暴落、アメリカ経済のみならず、世界経済を土台から揺るがせ、大混乱に突き落とした。

 アメリカが「住宅バブル」に突入していくのは、「サブプライムローン」なる低所得者向け住宅ローンが「発明」され、低所得者への住宅販売が急速に拡大し始めた2003年ごろである。かつて日本にも「土地神話」というものがあった。「土地の値段は絶対下がらない」「土地さえ買って持っておれば絶対安心」という信仰・神話である。それが「不動産バブル」を産み、それが1989年12月に破裂・爆発し、株価は一気に下がり、日本の深刻な経済危機を引き起こした。同じように、アメリカには「住宅神話」というものがあった。「住宅の値段は絶対に下がらない」という信仰・神話である。それが「住宅バブル」を産み出したのである。

 ただ、忘れてならないことは、この「住宅バブル」の背後には、2001年9月11日のアメリカ中枢機関を襲った「同時多発テロ」(3000人死亡)に対する報復戦争として始まったアフガン戦争があり、2003年3月に「サダム・フセインはテロ集団アルカイダと繋がり、大量破壊兵器を造っている」(後にこれらは嘘であったことが判明)として開始したイラク戦争があったことである。

 ブッシュ政権アメリカ政府の話では、「戦争はすぐ終わり、戦費も僅かに過ぎず、安い石油が手に入り、素晴らしい民主主義的世界が中東全体に広まり、アメリカ経済に大発展をもたらすであろう」ということであった(注:アメリカのシェールオイルが本格的採掘を開始し、アメリカ国内の石油生産量が増大していくのは2010年代からである)。

 しかし、ご存じの通り、2020年の今日に至るも、アフガニスタンでは未だに内戦が続き、フセインが倒された後のイラクには「イスラム国」(IS)が生まれ、激しい戦闘が展開され、その「イスラム国」は崩壊したものの、今度は米国・イランの対立を激化させ、更にその戦火はシリアに波及し、今や中東全体が「不安定混乱地帯」となっているのだ。戦争を始めたブッシュ政権アメリカ政府の思惑は完全に崩れ去り、戦争は長引き、戦費は膨大になり、「アメリカ一極の世界支配」は崩壊し、今や資本主義世界は無重力・大漂流化してしまっているのである。

 この戦争は「アメリカ一極の世界支配の崩壊」を引き起こし、アメリカ及び世界の政治に深刻な影響を与えたが、アメリカ及び世界経済にも深刻な影響を与えた。

 その第1は膨大な戦費の出費である。ノーベル経済学賞受賞者であるコロンビア大学教授スティグリッツは、『世界を不幸にするアメリカの戦争経済』(2008年5月刊・徳間書店)において、「2012年にアフガン・イラクから完全撤退した場合」の試算として、「アメリカ一国が出費した総戦費は3兆ドル以上」(1ドル105円だと315兆円以上)とはじき出している。そしてまた、スティグリッツ教授は「戦争は経済を上向かせるは神話は全くの誤りであり、今時、こんな神話を信じるエコノミスト一人もいない」「戦争・軍備にカネを費やすことはどぶにカネを捨てることと同じで、兵器ではなく、工場投資、インフラ投資、研究投資、健康投資、教育投資にカネを回しておけば、将来的に生産性が増し、大きな成果を獲得できるかもしれないのだ」「イラク戦争アメリカ経済を弱体化させたことは議論をまたない」と明言している。アメリカ政府はこうした膨大な戦費(普通の公共投資の上に積み上げられる追加費用)を国債発行によって処理するしかなく、毎年膨大な赤字が垂れ流され、膨大な負債が増えていった。スティグリッツ教授は、その負債は「アフガニスタンイラク戦争を仕掛けたつけで、2008会計年度の終了時には9000億ドル(1ドル105円として94.5兆円)を越えるであろう」としている。

 第2は石油高騰である。この点についても、スティグリッツ教授は「イラク戦争は開戦と同時に右肩上がりの原油高騰を引きおこし、戦争が長引くに従ってどんどん高騰していった。これによって利益を得たのはエクソン・モービルなど石油大手会社だけで、総体としてのアメリカ経済は高い石油価格に苦しめられてきた」と明言している(注:シェールガス資源の採掘が増大していくのは2010年代以降である)。本来アメリカ製品の購買に向けられるべき石油代金である年間250億ドル~500億ドルのカネが産油国に支払われ、その分アメリカ国内の消費は減少し、国内総生産GDP)は大幅に落ち込んだ。そしてアメリカの国内消費の落ち込みは、輸入を減らし、世界各国の輸出を落ち込ませ、世界経済にも大きな打撃を与えた。

以上のような二つの要因故に、間違いなく、長引く戦争はアメリカ経済に深刻な打撃を与えた。その対策として、アメリカ政府と中央銀行連邦準備制度理事会FRB)は如何なる手を打ったのか。実は、彼らの打ったその手が、リーマン・ショックを生み出していくのである。

 スティグリッツ教授は先の著書で次のように指摘している。

連邦準備制度理事会FRB)は、金利の引き上げを見送り、金融機関の貸し出し基準の緩和に目をつぶり、アメリカ人がもっとカネを借りられるように、もっとカネを使えるように後押ししたのだ。記録的な低金利が続く中、当時のFRB議長アラン・グリーンスパンは事実上、変動金利型の住宅ローンを推奨し、〝さらなるリスクを取れ〟と国民を焚きつけて来た。変動金利型は初期の利払いを低く抑えられるため、同じ抵当物件でも、より大きな資金が借りられる。こういうからくりがあったからこそ、アメリカは身の程を越える消費を続けてこられたわけだ』と。(注:FEDは米国の中央銀行の制度そのものを指し、その中で実際に意思決定をしている組織がFRB

 まさに、スティグリッツ教授が指摘するように、リーマン・ショックの原因となった「住宅バブル」の背景にあったのは、2001年9月11日のアメリカ中枢機関を襲った「同時多発テロ」(3000人死亡)に対する報復戦争として始まったアフガン戦争であり、2003年3月に「サダム・フセインはテロ集団アルカイダと繋がり、大量破壊兵器を造っている」として開始されたイラク戦争であった。

アメリカ発世界恐慌(2008年リーマンショック・1929年大恐慌)とソビエト社会主義(1928年第1次・1933年第2次計画経済)(1)

                                                                 小林尹夫

《はじめに》

『我々は今、「21世紀型恐慌」のさなかにいる。リーマン・ショック以後、財政赤字を悪化させた各国は債務危機に陥り、ギリシャに端を発した欧州のソブリン(政府債務)危機、米国のデフォルト(債務不履行)危機などを引き起こしている。今まで繰り返し起こってきた恐慌とは、根源的に違う部分があると同時に、古典的な恐慌としての性格も多分にある。新しいものと古いものの両方の側面を持ちながら、最も恐ろしい経済現象を目の当たりにしている。

 恐慌は文字通り人々を「恐れ慌(あわ)て」させる。なぜなら、恐慌は経済活動のショック死現象だからである。経済活動に一気にブレーキがかかり、生産が急激に落ち込み、通貨供給を増やす「信用創造」の流れが断ち切れる。それが恐慌だ。その根源的な特性は19世紀だろうが、20世紀だろうが、21世紀だろうが変わらないが、恐慌をもたらす力学、その後の展開は以前と現在とでは大いに異なる。産業革命を経て、歴史とともに複雑化した経済は20世紀の最後の10年に「グローバル時代」という新たな局面を迎えたからである。…

 結果への起因を探る歴史の旅をすれば、我々が置かれている「今」と「これから」が見えてくるはずだ。打開策の見えない経済状況だからこそ、恐慌の歴史を振り返る意義は非常に大きい。』

 これは、浜矩子・同志社大学大学院ビジネス研究科教授の著書『恐慌の歴史』(2011年11月刊・宝島新書)の冒頭の一文である。1952年生まれの氏は、一ツ橋大学経済学部を出て、75年に三菱総合研究所に入社し、以後、ロンドン駐在員事務所所長兼駐在エコノミスト、経済調査部長を歴任。2002年より同志社大学の教授となり、『グローバル恐慌』(岩波新書)『ドル終焉』(ビジネス社)、そして最近では『どアホノミクスの断末魔』 (角川新書)など多数の著作を発表し、現代資本主義の抱える深刻な政治的経済的危機を取り上げ、容赦の無い警告を発している。そんな氏は、経歴からも明らかなように、スミス・ケインズの流れをくむ近代経済学の専門家であり、そこに出発点があり、決してマルクス主義経済学から出発しているわけではない。とは言え、氏は2020年3月に講談社より刊行した『強欲「奴隷国家」からの脱却~非正規労働者時代をマルクスが読み解いたら~』において、マルクス主義哲学・経済学に対する深い理解と高い見識を示している。

 現在世界は、新型コロナウイルスの「パンデミック」(世界的流行)下にあり、現代資本主義の危機は、浜教授が著書『恐慌の歴史』で指摘しているように、「21世紀型恐慌」として一層深化・発展し、「1929年大恐慌」の再来・爆発が懸念されている。

 本著作『アメリカ発世界恐慌(1929年大恐慌)とソビエト社会主義(1928年第1次・1933年第2次計画経済)』では、マルクス・エンゲルス、そしてレーニンが明らかにした恐慌論及び社会主義論を提起し、その後でアメリカで実際に起こった二つの世界恐慌(2008年リーマンショックと1929年大恐慌)の本質を解明し、最後にレーニンスターリンによる社会主義建設40年の歴史を振り返り、資本主義制度が生み出す「恐慌」の後に実現される社会―それは、近代コミュニティー制度の社会から社会主義制度の社会へであり、それこそが歴史の必然の流れであることを明らかにしたい。 

 浜教授は『結果への起因を探る歴史の旅をすれば、我々が置かれている「今」と「これから」が見えてくるはずだ。打開策の見えない経済状況だからこそ、恐慌の歴史を振り返る意義は非常に大きい』と述べている。まさにその通りであり、著者もその提起を受け止め、「歴史の旅」に就き、恐慌の真の「打開策」と「これから」の社会とは如何にあるべきか、を明らかにしたいと考えるものである。

 

『君たちは―』(第28 回 ・最終回)・社会主義とは何か(3) 『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)-私の読書体験ノート

 人類史の未来とはいかなるものか。

 現代の国家独占資本主義体制は、その資本主義的国家と権力は、人民の闘いと人民の力によって、人民の権力たる人民評議会の手によって打倒され、階級無き社会―共同体国家・共同体社会が生み出され、やがて社会主義へ、最終的には共産主義へと発展していく。それが歴史の発展法則である。われわれはすべてを哲学・歴史科学 的世界観に徹するよう呼びかける。 われわれは一貫して次のような科学的世界観、歴史科学観を提起する。

 

 

全世界人民の掲げるべき闘争スローガン(10項目)

 

 

人類とその社会は永遠の過去から永遠の未来に向かって運動し、発展し、爆発し、収れんされつつ前進していく。そのエネルギーは人間の生きる力であり、その物質的表現としての生産力である。

 

生産力の発展がその度合いに応 じて生産関係としての人類社会(国家)を作り出していった。それは最初の原始共同体、次の奴隷制封建制、資本主義制、そして社会主義へと一貫して生産力の発展が生産関係 (国家) を変化させていった。これからもそうなる。

 

物理学が証明しているとおり、 すべての生物は環境が作り出していく。人類もまた環境の産物であり、進化していった。環境が人間を変えていく。新しい環境と新しい社会は新しい型の人間を作り出していく。

 

人類の歴史を見ればわかるとおり、一つの支配権力、一つの国家形態 が永遠であったことは一度もない。歴史は常に運動し、変化し、発展し、転換して次々と新しい時代を作り出していった。そして歴史を見ればわかるとおり、変化は静かで一直線ではない。爆発と収れんは歴史法則である。歴史は必然を持って前を目指すが、その過程では常に偶然が伴う。偶然は必然のための産物であり、偶然は必然のための糧である。そして必然の世界とは人民の人民による人民のための世界であり、より高度に発展したコミュニティー社会である。歴史は到達すべきところに必ず到達する。

 

コミュニティーとは何か。人民による人民のための人民の世界とは何か。それは、国家、社会、生産活動の運営目的を、最大限の利益と利潤追求のみに注ぐのではなく、すべてを人民の生活と文化水準と社会環境の安心・安全・安定のために注ぐ。  

 

 生産第一主義、物質万能主義、 拝金主義、弱肉強食の国家と社会ではなく、人間性の豊かさと人間の尊厳と人間としての連帯と共生の国家と社会にする。

 

 金と物がすべてではなく、人間の心と自然の豊かさが第一であり、姿や形けの美しさではなく、働く人びとの生きる姿と心の美しさが第一であり、一人だけで急いで先に進むのではなく、遅くてもみんなが一緒に進む。

 

人類とその社会は生まれたときから環境の産物であり、歴史的なものであった。環境が変われば人類とその社会も変わる。国家と権力が変われば人類社会は変わる。

 

そのための力こそ、すべて人民のための・人民による・人民権力であり、その具体的表現たる人民評議会である。運動と闘いの中でいたるところに評議会を組織せよ。人民の要求、人民の意志としてここでする。そして権力として、歴史時代が求める自らの責任と任務を執行させる。

 

人類が最初にはじめてつくった社会は、原始的ではあったが、そこにはまさに共同と共生と連帯の人間的社会があった。そしていくたの回り道をしたが、その間により大きくなってもとに帰る。つまりより高度に発達した近代的コミュニティー国家と社会へ。ここから本当の民主主義にもとづく人間社会、人民社会が生まれる。こうして、人類は総力をあげて大宇宙との闘い、新しい闘い、宇宙の開発と開拓の闘いに進軍するであろう。

 

                     2020年8月15日  完

 

 次回より、「世界恐慌(1929年大恐慌リーマンショック)とソビエト社会主義」を連載します。更新は毎月10日です。

君たちは―』(第27 回)・社会主義とは何か (2) 『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)-私の読書体験ノート

『君たちは―』(第27 回)・社会主義とは何か (

君たちはどう生きるか』(吉野源三郎-私の読書体験ノート

 

 資本主義体制下の企業は、多くの消費者・製品の購買者を相手に、つまり社会的必要に応じて大量の製品を生産することを目的とする。このように、生産目的が完全に社会的であるにもかかわらず、生産物は資本家の私有物であり、生産計画もまた資本家(企業家)の自由に任されており、その結果、同じ製品を生産する幾つかの企業がそれぞれの生産計画を持って他の同業他社と競争する。自動車を例にとれば、トヨタ、日産、マツダ、スズキ、ホンダ、BMW、フォード、ルノーといった企業がそれぞれの生産計画に従って、自由に生産する。勿論、企業はある程度の市場調査を行って生産しているが、本質的にそれは非計画的で無政府的たらざるを得ない。その結果、多すぎたり少なすぎたりする(たいていは多すぎる)。

 ものが世の中に大量に放出され、大量のものが溢れている。しかし、消費者の側に買うお金がない時、それは過剰生産となり、恐慌を引き起こす。資本主義経済の宿命的混乱、市場経済の崩壊的現象である。こうした過剰生産による恐慌現象はほぼ10年に1回は起こっている。

 ところで、現代のような銀行や投資会社などの金融資本が資本主義のトップに立ち、資本主義経済を支配している社会では、政府・中央銀行の行なう金融政策(金利を高くしたり、低くしたりし、市中に出回る紙幣・カネの量を少なくしたり、多くしたりする)の結果、株式会社の株が上がったり、下がったりする。多くの場合、景気を刺激するためにと、大量にカネが市場にばらまかれる。それが生産活動や消費活動に回ればそれなりの効果がでるが、もはや過剰生産が行き過ぎているとき、市場はインフレ(カネがありあまっているバブルの状態)となり、そのカネは株式の投資に回り、経済の実態(生産・販売の動向)と関係なく、株の高騰を招き、何かの不安材料がきっかけで、株の暴落が始まる。危険な投資活動の実態が暴露され、突然、リスクを感じた投資家が「買い」から「売り」に走り、株の大暴落が引き起こされ、一部の投資会社・銀行が破産し、世界経済が大混乱に陥り、カネの流れがストップし、経済活動がストップし、大量の失業者が発生する。バブルの崩壊である。まさに、世の中にモノはあふれる程あるが、買う者がいない。恐慌が産まれる。現代においては、こうした金融の混乱を原因とする恐慌がほとんどであり、その恐慌は世界的で、深刻な結果を招かずにいない。

 その良い例がリーマンショックである。リーマン・ショックは、2008年9月15日に米国の大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズ投資銀行)が倒産した。2008年9月8日、アメリカ合衆国財務省は、多くの金融会社に公的資金をつぎ込む救済政策を決定。多くの金融機関があまりに「大き過ぎて潰せない」のであった。しかし、リーマン・ブラザーズは、救済対策が遅れ、2008年9月15日(月曜日)に連邦倒産法の適用を連邦裁判所に申請するに至った。リーマン・ブラザーズは、負債総額約6000億ドル(約64兆円)というアメリカ合衆国の歴史上、最大の企業倒産。これにより、世界連鎖的な信用収縮による金融危機を招いた。2008年10月3日には、アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュが、金融システムに7,000億ドル(約75兆円)の公的資金を注入して不良債権を買い取ることを柱とした、金融安定化法(緊急経済安定化法)を打ち出し、何とか全面的崩壊を食い止めた。日本の日経平均株価も大暴落を起こし、9月12日(金曜日)の終値は12,214円だったが、10月28日には一時は6,000円台まで下落し、1982年(昭和57年)10月以来、26年ぶりの安値を記録した。

 リーマン・ショック大恐慌の寸前で拡大を免れたが、それは、中国はじめ世界各国の政府が大量の公的資金(税金)を投入し、金融機関を救済し、生産活動を維持し、消費刺激をが増やし、失業対策を行った結果であった。しかし、これはその後、世界的な低賃金・非正規労働者の増大・大幅増税を引き起こし、世界的な格差拡大をつくり出し、深刻な「貧富の対立」を生み出した。

 こうした「政府」(公的機関)による「公的資金」(税金)投入による「企業救済」(資本救済)、即ちこうした「社会的解決」は、まさに「資本主義」(私的所有と私的経済活動)の否定であり、「社会主義」そのものなのである。「社会主義」の到来はもう目の前で始まっている。ただし、その全面的実現は、国家体制の根本的変革抜きには実現しえないのであるが。