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(小林尹夫-哲学ルーム)

『君たちは―』(第26回)・社会主義とは何か (1)

 社会主義とは何か。この問題について最も分かりやすく論じた文献が、1882年にマルクスの盟友フリードリッヒ・エンゲルスが書いた『空想より科学へ―社会主義の発展―』である。

 その内容を簡潔にまとめると次のようになる。

 資本主義制度の下における生産関係の基礎は、資本家が生産手段を所有するが、生産に従事する働き人、即ち賃金労働者を所有しないということである。資本家はこれらの労働者を殺したり、売ったりすることはできない。何故なら、賃金労働者は個人的な隷属関係を全く有していないからである。しかしながら、彼らは生産手段を奪われているので、餓死しないためには自己の労働力を資本家に売ること、搾取の桎梏を背負うことが余儀なくされている。…
 生産力を厖大な規模に発展させた資本主義は、それにとって解決のできない矛盾にひっかかってしまった。資本主義はますます多量の商品を生産し、その値段を下げて競争を激化させ、中小の私有財産所有者の大衆を零落させ、彼らをプロレタリアとなし、プロレタリアートの購買力を減退させるに至り、その結果、生産された商品の売れ行きは不可能になってくるのである。資本主義はまた、生産を拡大し、大工場に幾百万の労働者を集中して、生産過程に社会的性格を与え、これによってそれ自身の土台を掘り崩すのである。何故なら、生産過程の社会的性格が生産手段の社会的所有を要求するにもかかわらず、生産手段は依然として生産過程の社会的性格と両立しない資本主義的私有として残っているからである。
 生産力の性格と生産関係との間のかかる相容れない矛盾は、生産過剰による周期的恐慌として現れる。その時、資本家は自ら作りだした住民大衆の零落によって、自己の商品に対して支払い能力のある需要を見出すことができず、その結果、生産物を焼き、製品を破棄し、生産を停止し、生産力を破壊することを余儀なくされているのに、その時、幾百万の住民は商品の不足からではなく商品の過剰生産のために、失業と飢餓に苦しまなければならなくさせられているのである。
 このことは、資本主義的生産関係が社会の生産力の状態に適応しなくなり、且つそれと到底相容れることのできない矛盾に陥ったことを意味する。このことは、資本主義が現在の生産手段に対する資本主義的所有制を、社会主義的所有制によって取り換える事を使命とする革命を胚胎することを意味する。このことは、搾取者と被搾取者の間の最も尖鋭なる階級闘争が資本主義制度の主要特徴であることを意味する。
 社会主義制度の下における生産関係の基礎は、生産手段に対する社会的所有ということである。ここでは、もはや搾取者もいないし被搾取者もいない。生産物は「働かざる者(注:ここで働かざる者といっているのは搾取者、不労所得者のことである)は食うべからず」という原則に従って、遂行された労働に応じて分配される。生産関係における人々の相互関係は、ここでは搾取から解放された働き人の同志的協力と社会主義的相互扶助とを特徴とする。

 この内容を、具体例を交えながら、詳しく説明しよう。