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(小林尹夫-哲学ルーム)

『君たちは―』(第21回)・資本主義とは何か (1)

君たちはどう生きるか』(吉野源三郎-私の読書体験ノート

 

 現代はグローバリゼーションの時代と言われている。世界の独占的大企業は、安い労働力、安い材料費、安い税金、高収益を求め、地理的制約を受けることなくは国際的となり、究極に達している。だが、その結果、僅か世界の15%の人間―一握りの独占的大企業―だけが豊かになり、残りの85%の人間は深刻な貧困に苦しむ、という世界を生み出してしまった(水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』)。どこの国でも、世界中で、少数の富める者と、多数の貧しい者の間に深刻な格差が生じ、深刻な分断的危機を抱えている。「少数の富める者と、多数の貧しい者の間の深刻な格差」―これは今や世界の問題、国際的問題、資本主義制度問題の問題となっているのである。

 資本主義国・日本の現状をみてみよう。1992年(平成4年)にバブル景気が崩壊し、いわゆる「経済低迷」「氷河期」に入る。2001年(平成13年)に「自民党をぶっ壊す」と叫んで実現された小泉政権は、「労働運動の崩壊」(国際的な社会主義運動の崩壊)を背景に、大胆な「規制緩和」に踏み出す。それは、企業(主として大企業)に課せられていた従来の「規制」を外し、企業に対し、利益を上げるために多くの「自由」を与えるものであり、「資本主義市場活性化」がその目的であった。小泉政権は株式市場・金融市場活性化のためにまず「郵政民営化」(公営を廃し、民営・株式会社化)を行う。そして、もう一つ、「日本型終身雇用を廃し、非正規雇用の大幅拡大」を断行する。その結果、安い賃金で雇える・こき使える「派遣労働者」「契約社員」「不正外国人労働者」が急速に増えていった。2018年(平成30年)総務省調査によっても、平成の30年間で、正規社員は3000万人でほぼ横ばいだったのに、一方、非正規労働者は平成1年・817万人(全体の20%)が、平成30年・2120万人へと急上昇し、総雇用者に占める非正規労働者の割合はなんと40%に達した。また、これにより低賃金が完全に定着するとともに、企業の利益・内部留保金は上昇の一途をたどった。財務省が発表した2017年度統計によると、2017年の企業(大企業)の内部留保金は前年度比9.9%増の446兆4844億で過去最高(2008年度はおよそ280兆円)。一方、労働分配率(企業が稼いだ利益の内、労働者の賃金・ボーナス・福利厚生にあてられた割合)は、前年度比1.3%減の66.2%で、これは43年ぶりの低水準であった。

 これで、資本主義国・日本の「格差」がどのようなものかが分かったであろう。さて、問題は、こうした格差問題・低賃金問題・非正規労働問題を如何に解決するか、である。現在、一般的に採用され、追求されている解決方法は、「賃上げ交渉」であり、「待遇改善交渉」であり、各種の「法改正」や「補助・支援金増額」である。それは、いわば「対症治療・対症療法」であって、「格差」そのものを廃止する「根本治療・根本療法」ではない。勿論、そうした「対症治療」そのものを否定するわけではないが、それは結局「取ったり・取られたり」であって、何も解決しない。国家権力(政府・政権)を握っている大企業・独占企業は、国家予算を支配し、官僚機構を支配し、それらを動員して自らの利益拡大のために死に物狂いの行動を展開する。絶対に損失を招くような「改善」「改良」を自らが認めることはない。

 大事なことは、「根本的解決」を目指すことである。「対症治療」を要求しつつ、「根本的治療」を目指すことである。そのためには、「資本主義とは何か」その本質をしっかりと掴まねばならないのである。

 史的唯物論マルクス・エンゲルスが解明した「資本主義とは何か、その後に来るべき社会とは何か」について、出来る限り平明に述べてみよう。